「"アタタメ""オススメ"していますが、いかがなさいますか？」
と言われ、
"アタタメ""オススメ"
がやけに韻を踏むので、
すぐに頭の中で理解できなかった。
"いかがなさいますか？"
ということはおそらく。
何かを選ばないといけないのであろう。
ぼんやりと
("アタタメ"は"温め"か‥？‥‥‥温めるかどうかってことかしらん‥？)
と、思い、
「そのようにしてください」
と、妙な日本語で返してしまった。
店員のかたは
「かしこまりました」
と言い、吾輩の注文した品々をトングを使って電子レンジの中に入れた。
今思えば、
「お願いします」
だったろうに‥
二ヶ月後、37年間使用していることになる吾輩の反射神経は、
大変くたびれているのか、
壊れかけているのかはわからんが、
後者とて、
きたえることは出来ても、
なおすことは出来ないのであろう。
"やれやれ"と思いながらも、
実のところ"しみじみ"な気がしている。
また、自分が注文した品々に対して、
"アタタメル"
という概念がなかったことも、
すぐに理解出来なかった理由としてあげられる。
"コレ"を自宅で食べる際、
吾輩は電子レンジで温めたりはしない。
"アタタメ"られたそれらは、
トレー上に引かれたサバーラップの上に乗せられ、
その横には一緒に注文したドリンクが置かれた。
店員のかたは
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
と、言い、吾輩はトレーを持って席へと移動した。
一人であったが店内ガラガラのため、二人がけのテーブル席に腰を下ろす。
まずは注文したドリンクで軽く口をしめらせる。
前の日に降っていた雨のせいなのか、
4月というのに妙に蒸し暑く、
注文時にホットコーヒーと散々悩んだが、
ゴクゴク飲めるアイスコーヒーを注文。
一緒に頼んだ食べ物のことを考えると、
ホットコーヒーもすてがたかった。
あたたかい飲み物とのほうが、
"こやつ"は口溶けが良いのである。
とはいえ今回は食べ物の方を"アタタメ"たのだから、
口溶けは良いままかもしれない。
プラスチックカップの飲み口のツマミを引き抜きながら、
(ここはストローを削減している店なのかしらん？)
と思った。
アイスコーヒーのリッド(蓋)は、ツマミを引くとストロー要らずで飲める仕様になっている。
エコとケチの間をゆく吾輩としては大変うれしい。
この仕様だとストローを抜く手間がはぶけるし、
その拍子でストローの先についた飲み物の雫がシャツの袖口を汚すこともない。
ただ、リップを塗っている時には煩わしいことこの上ない。
飲み口にべっとりとついた、魔物を思わせるあのリップの跡というものは、自分のものとて気味が悪い。
てか、素直に品に欠ける。
何事も一長一短である。
そういえば‥
先日職場のプレおばさん諸君(※昭和生まれの同世代)が、スタバのフラペチーノを飲みながら
「そうか‥フラペチーノのストローも紙製になったのか‥」
と、嘆いておられたが‥
もはや紙ストローなぞは当たり前となり、
そのようなことにいちいち嘆いてもいられないのでは？
と、思ったが。
これこそが現代に於ける
"たしなみ"
やら
"洒落"
と呼ばれるもののような気がした。
他愛もない話も大事なのである。
これつながりで、
吾輩のアンダー6歳くらいの子たちの間では、
LGBTQを名乗ることがポピュラーになりつつあるのか‥
いや‥
ある一部こじらせ界隈の話のようにも思うのだが‥
職場のそれこそプレおばさんに聞いた話では、
今の若い子世代‥
大体1992年以降の生まれの子らの間では、
「実は私、どっちも大丈夫なんだよね」
という、カミングアウトにしてはやや違和感のある発言？宣言？がなされているようだ。
さまざまな解釈ができるとは思うのだが、
要は
「私はちょっと人と違うんです」
「センシティブな面があるので、気を遣っていただけるとありがたいです」
という、もはや
"シャウト"
と捉えなければ、
どんどんと悪い方向に解釈しちまうぞ？
と、性悪プレおばさんの吾輩は思うのだが。
まぁ、そういう"主張"が一種の"たしなみ"や"洒落"になりつつあるのだとか、ないのだとか。
吾輩の青春時代には"学校へ行こう！"というテレビ番組内に於いて、
"未成年の主張"
なるコーナーが設けられていたため、
どうにか陰やら鬱やらに悩まずにすんだのである。
あっけらかんと生きてゆける世代に生まれたことは、
神ではなく親に感謝したいところである。
我が母上よ‥
24歳で吾輩を産んでくれてありがとう。
30歳以降に産んでくれてたら、
あやうくこの厄介な"たしなみ"および"洒落"に、無意識のうちに興じていなければならなかったろう。
ちなみに吾輩は今、一度も妊娠経験がなく、二ヶ月後には37歳になる‥
これはまさしく時代の変化である。
なんだか話がトリップしてしまい申し訳ない。
アイスコーヒーで口をしめらせた吾輩の話に戻ろう‥
"アタタメ"を"オススメ"され、
電子レンジで"アタタメ"られたこやつをサバーラップに包んだところ、
もにゅるん‥
と、完全にへたってしまった。
"アタタメ"たとはいえ、
こやつらは熱くて触れないレベルではない。
元々、生地がふんわりしていて柔らかいために、
少しの"アタタメ"で完全にへたってしまうようだ。
へたるというよりも、
とけるに近いかもしれない。
ピザ生地の上でとろけた、
チーズを思いださせる。
それでも懸命に、
手を汚すまいとサバーラップにくるみ、
持ち上げるも‥
もにゅるん‥
口とあごでむかえにいって食べようとしても‥
もにゅるん‥
ひたすらに"もにゅるん''。
(何故なのだ‥！もにゅるん！)
こやつの名はもにゅるんではなく、
クリスピークリームドーナツのイーストドーナツとケーキドーナツという名である。
イーストドーナツよりも比較的かために作られているケーキドーナツでさえも、
"アタタメ"たことでもにゅるんになってしまっていた。
抹茶味のケーキドーナツを楽しみにしていたが、
もはや味すらももにゅるんであった。
今度クリスピークリームドーナツに行った時には、
"アタタメ"ないで食べてみようと思う。
たとえ"アタタメ"を"オススメ"されてもだ。
※次回は4/25に上げます
