日が長くなったせいで、
午後6時ですら薄明るい日が続いています。
どこにもとどまろうとしない風のかたまりが、
次から次へと自分の隣を横切っていくような‥
そんな気持ちのいい夜です。
今宵は禁じ手としていた、カフェ飯にございやす。
私はロコモコを出すようなお店が嫌いで、
そもそも“カフェで飯を食う”こと自体に抵抗があります。
理由は、
ハンバーグと目玉焼きの組み合わせで美味しくならないわけがないのに、
そこにオシャレっていう雰囲気が加わることがいけすかないから。
加えて、
お茶のついでにサンドイッチやケーキで食事を済ませてもいいのは、
身長156センチ以下、体重50キロ以下のか弱き生き物だけな気がするから。
身長162センチ、体重50キロ以上の私にとってカフェの飯は、
(鳥のエサじゃ!)
こうして毎度のごとく渋谷で飯を食ぅとりますが、
実はわたくしめ、
できる限り“カフェ”は避けてきました。
ですが。
この度。
(ちょっといい店を見つけてしまったんですねーっ。)
カフェ業に腰をすえた、
(ああ、コレ、モノホンやん。)
と思えるくらいのこだわりカフェ。
ちょっと高くても相場だと思える丁寧さがあって、
絶品とまでは言いませんが、
旬の食べ物を使っていたり、
変わった味付けをしていたり。
“おしゃれな小料理屋”
と呼ぶに相応しい夜カフェなのです。
(おしゃんてぃ気取って、生ビール飲むだ!)
私は外で、
しかもひとりで、
ビールを飲む時にはそれ相応の“理由”を用意しています。
(令和祭りじゃ、よっしゃこーい!)
東京生まれヒップホップ育ちならぬ、
昭和生まれ平成育ちの私は、
もちろんこじつけに過ぎぬ“理由”にて、
今宵はビールを解禁することにしました。
自己満足にも満たないこの“理由”こそが、
俗に言う“肴”‥
っつーことにさせてくだせぇ、my GOD。
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渋谷駅の渋谷ストリーム側の出口から出て、
駅を背にして10分ほど歩いた場所に今宵のお店【udo(ウド)】はあります。
「少し歩くな‥」と思ったらその道で間違いありません。
手前にはかなり人気そうなビストロがあり、
その奥でひっそりと佇んでいるのが【udo】。
静かに照らされた店名や外観は、
バーをも思わせます。
20代では入店こそ躊躇するであろうその店構えに、
(はっはっは、わしがビビるわけがなかろう!)
と息巻いたものの、
ひとまず息をのみ、
扉のハンドルを引きました。
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“シャランシャラン”か“カランコロン”かは忘れましたが、
ドアベルがなってから
「いらっしゃいませー‥」
という静かな2人の女性の声が聞こえました。
入り口左手にあるはなれの席には先客が1組。
私は誰もいない右手のオープンキッチンの方の席に進み、
カウンター席に座りました。
席にはすでにメニューとお箸が用意されてあって、
それを眺めていると店員さんが、
「こちらが本日のメニューです。どちらもハーフでのご用意もできます。」
と、大きめのブラックボードに書かれたメニューを隣席に立てかけてくださりました。
(旬の食材もいいけど、私は定食をめあてにきたのよねん♪)
一品料理とお酒をちびりちびりもいいのですが、
私はお酒を飲みに来たのではなく、
(カフェに飯を食いに来たのだ!)
オープンキッチンの中に居る店員さんに、
「すみません、定食とハートランドのグラスをお願いします」
と注文し、
「かしこまりました。定食のメインがお肉とお魚から選べまして、本日はお肉が“鶏肉のナンプラー炒め”で、お魚が”カンパチの塩焼き”になっております」
あまりナンプラーが得意ではない私は、
すぐにカンパチを選択。
「ご飯も2種類から選べまして、玄米と古代米がございます」
最近、お家でも玄米生活を始めたわたくし。
(外で意識して玄米を食べることってなかったかも‥)
自分で炊いてるからこそ、
外との違いが気になり
「玄米でお願いします」
注文後、
お手洗いを借りて席に戻るやいなや、
「すみません、お魚、“カンパチ”じゃなくて“カジキ”だったんですけど、いかがなさいますか‥?」
魚の違いがわかるような人間ではないので、
「あっ、“カジキ”で大丈夫ですよ」
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「ハートランドと‥にんじんとたけのこの柚子胡椒和えです。こちらはお手拭きにお使いください」
(うぴょー!でました、ハートランドさん!のほほー、良き座布団をあてがわれておられますのん‥!)
小さなアルミのトレーにはさっと湿らせた布が。
(あー、めちゃオーガニック系ー!)
無添加だとか無農薬にこだわったお店でよくあるやつで、
そういうお店だとお手洗いの洗面台横にも小さなハンドタオルが用意されていることがあります。
(もちろん1人1枚、一回こっきりのやつねん!)
5つ星のホテルのお手洗いなんかもそうですよね。
紙おしぼりやペーパータオルだと、
つい1つ以上を欲してしまうのが我々現代人。
(資源には限りがありますからのぅ‥)
こういうぬくもりを感じられる店での提供は大いに結構でございまする。
(さすがに“かに道楽”では御免のシステムだがの‥)
さっそくきめ細やかな泡をのどの奥へ‥!
(っつぁー!うまばやしー!)
おそらくサーバー清掃は毎日やられているのでしょう。
なめらかな口当たりに雑味のない味わい。
湧き水を飲んでるかのように澄んだハートランドです。
(飲むたびにエンジェルリング!やりよりますなぁ!!)
のどが潤ったのでつきだしに箸をのばしました。
さっと味付けした煮物風でして、
柚子胡椒の辛さがアクセントになっています。
(むぅ‥?コリは何だ??)
にんじんとたけのこに混じる、
デザートのミントほどのおおきさの葉っぱ。
(ハーブかのぅ?)
ローズマリーやパクチー、このめや三つ葉ではないことは確かです。
たくさん入っているので、おそらく食べられる葉っぱなのでしょう。
恐る恐る口に入れると、
(なんだろう、この爽やかなかほり。初めて食べる味じゃないんだけどなぁ‥なんだろう、コレ‥)
嫌な味ではなかったので、
そのまま食べ尽くしました。
ハーブを検索してみても、
いまいちこれに該当するものが見つかりません。
32年生きていたってわからないことだらけですね。
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「おまたせしましたー‥本日の定食です」
(わぁお、小鉢ざんまい!ばんざい!)
女の人っちゅーもんは、
どうしてこんなにも“一口がたくさん”が好きなんでしょうかね。
なんとも彩り豊かな料理たち。
さっそくひとつずつ堪能させていただきます。
まずは汁ものから。
具だくさん過ぎる味噌汁は、
残り野菜をやっつけようとしたのでしょうか‥?
野菜の甘みが溶け込んでいて、
やや豚汁のような奥深さも感じられます。
わかめはちゃんと生のものを使っているらしく、
(ズルっとトロっとネバっとうまい!)
お次は生野菜のサラダ。
(おそらくオニオンドレッシングだわさ♪)
フレッシュで体に良さそうな味です。
そのサラダにからめて、
ポテサラも一口。
(うーむ、塩気が強めのタイプね!)
しっかりめに味付けされた“王道ポテサラ”にございます。
そして一際目立つ赤いコロッケ!
(薄衣、美味!)
この赤きものの正体がわからないのですが、
里芋のようにねっとりした食感。
味は薄く、芋類独特のほのかな甘みがあります。
自家製ピクルスは甘酸っぱくてワインにも合いそう。
きんぴらはごぼうや大根ではなく、
ふきやセロリのような節っぽさがある野菜とにんじんでした。
これもよくわからない野菜でして、
ふきとセロリが大好物な私にとってはかなりのヒット。
にんじんと同じサイズにきれいに切り揃えられたところも
(美しくて素晴らしい!)
そして例の
(“カジキ”でございます!)
プリッとした白身魚で、ご飯が進む進む!
あ。
玄米ご飯にはですね、
わかめのふりかけがかけてありました。
もちっとした炊き加減だったので、玄米のあのつぶつぶが嫌だという方にもおすすめ。
(あちきはあのつぶつぶが好きなんじゃがのぅ‥)
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ビールが運ばれてきたタイミングで常連さんと思しき男性がはいってこられ、
その方もカウンター席に着かれました。
会話の内容から察するに、
昨日もいらしていたようで、
昨夜は泥酔状態で店を後にしたのだとか。
(40近くが40オーバー‥独身‥いや、既婚もありえるぞなもし‥)
オシャレな服装に独特の雰囲気があったので、
(デザイナーとかかしらん‥)
クリエイティブな仕事をしていないと、
こんな小洒落たカフェでお酒なんて飲まないですよね。
その常連さんがキッチンの中の店員さんに
「話した内容というよりは、昨日もそこに居ましたね、って感じです。」
と言われていたのが、
なんといいますか、
ここだけを切り取ると、
小説の一節のような感じにも思えて、
(なぁんか‥いいね!)
と、心の中で“いいね!”ボタンを連打することになりました。
今宵も渋谷は浅いようで深い。