なにかをなくした時、
必ずといっていいほどゴミ箱をあさるが、
そのなくした物は、
高い確率でゴミ箱からは出てこない。
玄関先に置かれたゴミ袋を見つめながら私は、
(まだその時ではない‥!)
と、自分に言い聞かせ、
ひとまず"悲しい開封の儀"は保留にした。
思い返せば、
昨日の外出時は風がものすごく強く、
整えていない髪型をかくすためにかぶったサファリハットを、
何度もかぶりなおしていた。
飛ばされ防止のあごヒモも、
強い風がふくたびに調整していたし。
ゴォーっという風の音の中、
夫と話しながら歩いていた。
そんな中でピアスが外れたのなら、
気づくわけがない。
そして35歳で、
毎朝サプリメントを飲んでいるこの体のどこに、
血まなこで歩道を探す体力があるというのだろう。
外で落としたのであればもう、
手のうちようがない。
(やはり"悲しい開封の儀"を執行するしかないのだろうか‥)
もう一度、
お風呂場と脱衣所を探す。
念のため、
マスクを収納しているステンレスラックの近辺にも目を凝らした。
起き抜けの夫も、
のそのそとベッド周りをあさりだす‥
『あったー!』
と叫ぶ夫の手には、
裏返しになったうすい掛け布団が握られていた。
ピアスはどうやら、
寝ているあいだに外れたらしい。
無意識の時間帯までは考えが及ばなかった‥
玄関先のゴミ袋はホッとしているかのようだった。
私もホッとした。
※次回は8/24にあげます