【かつて倭(わ)の国と呼ばれたこの地には、
八百万の神が住んでいたという。
人々はそれをあがめ、
自然とともに生きてきた。
しかし、
幾千年の時が過ぎ、
人々はいつしか自然にさからうようになった。
そう、
運命は己の手の中にあると信じ、
おおいなる力の存在のことなど、
もはや忘れてしまったのである。
かつて倭の国と呼ばれたこの地に、
史上空前の危機が、今、
襲いかかろうとしている。
それを憂(うれ)いた神の遣いは、
西暦二千〇七年の神無月、
とあるひとりの男に白羽の矢をたてた。
-鹿男(しかおとこ)あをによし-】
この前口上(まえこうじょう)がいけない。
この前口上さえなければ、
私は七百五十五円を支払い、
この"鹿男あをによし"というタイトルの本を買うことはなかった。
最初に入った本屋で、
背表紙に鼻糞のようなものがついていたからといって、
わざわざ違う本屋に行くこともなかった。
本を開くやいなや、
もくじのページにて、
この本の解説をお書きになったのは、
今は亡き俳優の児玉清さんであることを知り、
(なになに、児玉さんはこの本の作者、万城目学さんの大ファンで‥
縁あって、ドラマ化にあたり、出演のオファーをいただいた、とな‥)
などという、エピソードを知ってしまった以上、
先の前口上の入ったドラマ版"鹿男あをによし"も、
"全部見尽くす"しかない。
まぁ、そんなことになる前に、
おそろしいまでに魅力的な例の前口上につられ、
すでにドラマ第一話目は観てしまったのである。
その第一話の最後‥
『さあ、神無月だ。‥出番だよ、先生。』
と、鹿が主人公である先生に話しかけて終わるのだが、
もうね、
まいったね、
(ああ、これが‥"一目惚れ"ってやつなんだな)
と、思っちゃったんだから、
ここ、
すでに"沼"!
そのセリフおよび一文に震えて、
気がついたら七百五十五円を支払っていたんだから、
こらぁ、君‥"病"だよ、"やー、まー、い"!
構成も言葉も、
みな素晴らしい"鹿男あをによし"。
ジャンルはファンタジーとなるようだが、
実はわたくしめ、
ファンタジーはやや苦手なジャンルになる‥
しかし昔から"神"をテーマにしたフィクションには、
なぜか心惹かれる傾向にある。
"神"話好きのかたは是非に。
※次回は4/5にあげます