少し前に上司に「ココイチに行くとなに頼む?」
と聞かれ、私は
「オムカレーです」
と、即答しました。
基本的にいつも同じものを食べたい人間なので、
初めてココイチに行った時においしいと思ったオムカレー以外は、
おそらく食べたことがありません。
続けて上司が、
「オムカレーしか頼まないの?」
と聞いてきたので、
「うーん‥オムカレーしか食べないですねぇ‥」
と言ったところ、
「僕も決まってカツカレーしか食べないんだよね。でも◯◯君に聞いたらいつも違うものを頼むんだってー‥それで他の人にも聞いたら、トッピングとかして、アレンジするってさー‥」
私は
(トッピングですかぁ‥)
と心の中でつぶやき、
その概念も習慣も皆無なものですから、
(その方々はもはやココイチを攻略しようとしているのでは?)
(もしくは制覇!?)
(いやいやむしろ侵略!?)
(‥まてよ。研究ののちに模倣!?そして“カレーハウスCoCo弐番屋”の爆誕!?)
むはむはと鼻息をあらくして考えていたのですが、
単にココイチに求めるものの違いかと思いました。
おそらく上司も私も、
格別なおいしさよりも安定したおいしさを求めているのでしょう。
ちなみにココイチのオムレツがのったカレーはオムカレーではなく、
スクランブルエッグカレーという名前でした。
お察しの通り、
今宵はカレーを喰らいます。
蕎麦やパンのように奥深い世界、カレー。
ここに足をつっこまずに生きてきましたが、
本日のお店【カレー屋 パクパクもりもり】に行ったことにより、
日本人である限りこの料理をたたえ、誇らねばならないなと思いました。
話は変わって‥
渋谷のカレーといえば見た目も味も素晴らしい【ムルギー】ですよね。
あいにく私には甘酸っぱい思い出があり、
以来、【ムルギー】をおとずれたことがありません。
ハタチそこそこの頃‥
私はひとり、
【ムルギー】の重い扉を開けました。
席に着き、オシャレなあんちゃんや粋な老人を横目にしていたかは定かではないのですが、渋谷の外れにあるにもかかわらず、人がひっきりなしに入ってきていたことは覚えています。
そして、運ばれてきた白いお皿のふちを見て、
(なんだこのうん◯みたいなヤツは‥)
と思ったのです。
当時、チャツネを知らなかった私は
(カレーが飛びちったのだろうか‥?)
と、わけのわからぬことを考え、
不明なものも一息にガブリとやってしまう性格ゆえ、(※おそらくこれは寅年だから)
その“うん◯みたいなヤツ”の全てをスプーンですくい‥
(‥‥‥うーん、カレーではない。甘い‥?酸味もありけり‥‥‥これは何ぞ?)
よくわからなかったのですが、
感覚で
“おそらく単体では食べないもの”
であることは判断ができました。
どんどん広がる甘酸っぱさにたえかね、
どんどんカレーとご飯とスライスされたゆで卵を頬張りました。
スパイスの効いた丁寧なカレーだったのでしょうが、
店を後にした時には“うん◯みたいなヤツ”のことで頭がいっぱいでした。
以来。
【ムルギー】には“うん◯チャツネ”という最低な印象がつき、なんとなく疎遠になってしまいました。
“うん◯味のカレー”と“カレー味のうん◯”という究極の選択肢がうまれたのも、
うん◯とカレーが切っても切れない関係にあるからなんだなと思いました。
(は?)
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渋谷の道玄坂を神泉駅に向かって歩くと、
地下に続く階段の手前に【カレー屋 パク森】という看板があります。
そこを降りて奥に進んでいくと、
渋谷独特の雰囲気を含んだ【カレー屋 パクパクもりもり】にたどり着きます。
「いらっしゃいませー。空いてるお席へどうぞー!」
声優さんのようなきれいな女性の声が飛んできて、
(なんとも気持ちのいい店だ!)
と思いました。
店は12、13席ほどの全席カウンターで、
私は適当に空いている席に座りました。
ホールはその女性店員さんが一人で切り盛りしていて、キッチンもシェフ一人だけ。
そして18:30の入店で空席が3席‥
なかなかの繁盛っぷりです。
席に置かれたメニューを開き、
まずはこのお店のシステムを把握します。
最近のお店は‥
例えばラーメン屋だと、
麺の固さやスープの濃さを選ばないといけなかったりしますよね。
カレー屋も同様に、
ルゥの辛さを選ぶ必要があったりします。
(パクもりさんはどうなのかしらん‥)
とメニューを見たところ、
そう細かい設定はされておらず、
希望でご飯の量を
“小盛、ふつう盛、中盛、大盛”
に変更可能とのことでした。
(“小盛”でも良いかもなぁ‥でも“ふつう盛”がどれくらいかわからないからなぁ‥)
ひとまず“ふつう盛”にすることにし、
カレーの種類も決まったので、
さっきの美声のお姉さんを呼ぼうと、
厨房の中にいらっしゃったお姉さんの方に顔を向けました。
あいにく作業中だったので、
改めようとした瞬間‥
「ただいままいります、少々お待ちくださいー‥」
という美声が飛んできて、
(えっ、私に言った!?私‥そっちを向いただけなのに!?すげぇぃやぁ、あのお姉さん‥)
もはや必殺仕事人の域を超えた、驚きの仕事っぷりでした。
「おまたせしました!ご注文、お伺いします」
「パク森野菜でお願いします‥!」
待っている間、
スマホをいじるフリをしながら周囲の方々の様子を伺っていました。
私の左隣に座っていたおおがらなスーツの男性は、
実にきれいにカレーをたいらげ、
私の右隣に座っていた3人組の男女グループは終始、英語で話をしていました。
アメリカ人っぽい男性と日本人の男女。
みな小洒落た格好をしていて、
おそらく外国人の彼が日本に遊びに来たのでしょう。
日本人の男女が抹茶味のなにかを手土産として差し出し、
外国人の彼は非常に驚きながら喜んでいました。
(もてなしの場としてここを選んだということは、本当においしいカレー屋なんだろうなぁ‥)
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「おまたせしました、パク森野菜です(コトッ‥)」
しゃもじできれいに平らに、それでいて硬く盛られたご飯。
その上には行儀よくドライカレーがのせられ、
周りを欧風のとろりとしたカレーが囲っています。
しっかりめに揚げられた野菜の散らし方はもはや芸術的。
(美しいっっっ!!!!!)
カレーは日本の無形文化遺産なのかもしれません。
私はテーブルの真ん中にあったカトラリーケースからスプーンをひき抜き、
(いざ、実食!)
ますはご飯とドライカレーの2層にメスを入れました。
ほろほろとしたひき肉の食感。
刺激の少ないスパイスの香り。
そぼろ丼のような肉感満載のドライカレーは、
まさに日本の王道カレーです。
揚げ野菜はところどころがサクサクと食感が良く、油っこくもありません。
少し焦げがある所も私は気に入り、
作り手のこだわりのようなものを感じました。
きつね色だけが美味しさの印ではありませんからね。
しかしながら基本的に“おかず”“3”に対し“ご飯”“7”という、
筋金入りの白米好きのわたくしめ。
すべてのご飯の上に、
みっちりとドライカレーが敷かれている今‥
(あちきはどの白米で、この液状のカレーを食べればいんですかー!?)
と、渋谷の中心で白米を所望しても、
もちろんこの喧騒に飲まれ、
かき消されてしまいました。
そんな時でも気丈に振る舞えるのが、
アラサー女性のいい所。
(このカレーは吾輩のカレー‥!好きにさせてもらおう‥!)
ご飯にのったドライカレーを二口分、
ドライカレーだけでいただき、
わざと白米だけのコーナーを作りました。
それを液状の欧風カレーにくぐらせ‥
ガブリ。
もっしゃ。
もっしゃ。
もっしゃ。
もっしゃ。
(たはー!酸味がほとばしるフルーティ系!!!そこにピリリと香る、スパイスのアクセント!)
うますぎて、食レポせずにはいられません。
先程のドライカレーとはまた違う旨味がありました。
そしてようやく気づいた付け合わせの存在。
テーブル中心部にカトラリーとともに並べてありました。
(おお!そなたは赤き隣人、福神漬け!その同居人のキュウリのお新香もおでましか!)
香物が2種類もあるとは、
(気がきき過ぎるにもほどがありますぞ!)
私は実家が赤い福神漬け派だったものですから、
福神漬けが赤いと妙にテンションがあがります。
よくわかりませんが、
(オゥ!マイブラザー!)
って感じがします。
キュウリのお新香にはタカノツメが入っていて、
(やや辛め?‥やや?うーん?辛いか?)
刺激を感じないレベルのピリ辛漬けといった感じでした。
食べ進めるうちに気づいたのですが、
この“きれいに平らに、それでいて硬く盛られたご飯”‥
(量が多い!!!!!)
お弁当箱に詰められたご飯のごとく、
(みっ、密度がっ‥!(汗))
思いのほか胃が膨らんでしまい、
私は残る二口分のカレーとライスを前に一時停止してしまいました。
(ぐっ、ぐるじい‥)←※苦しい
しかしこんなにも丹精込めて作られたカレーを残すのは、
(日本の恥!アイム、ジャパニーズ!!!)
右隣の方々にインスパイア(※なんか使い方違う)された風にして、
最後の追い込みをかけました。
その後ろで、
例の美声のお姉さんが男性のお客さんの会計をしていました。
会計がすむと、
「いつもありがとうございます、お気をつけて‥!」
となんとも心あたたまるセリフでお見送り。
やはり彼女の接客スキルは並大抵のものではないようです。
お姉さんの素晴らしいおもてなしを受けるために店に伺うのも悪くはないなと思いました。
最後の二口を胃につめこんだ私も、
さっさと会計を済ませようと立ち上がります。
お会計がすむと、
「お寒いですから暖かくしてお帰りください」
と私にも心あたたまるセリフを用意してくれ、
私はふかしたサツマイモのような心持ちで店を後にしました。
(ホクホクね、ホクホク)
実に日本らしい、丁寧でおいしいカレーでした。
私にはまだ外国人の知り合いはいませんが、
もしできた時にはここのカレーを食べさせてあげたいなと思いました。